@steemit-jpコンテスト#11「好きな動物」:鼻行類steemCreated with Sketch.

in #japanese6 years ago

鼻行類トップ.png

今回のコンテストのテーマはなんと「好きな動物」!子供の頃、暇さえあれば動物図鑑や鳥類図鑑を貪り読んでいた僕としては参加しないわけにはいきません。

しかし、思い入れが強すぎるだけに、いざ書こうとすると、何を選ぶか、全く決められません。好きな動物が多すぎます。いや、そもそも「動物」の範囲はどこまで?哺乳類は間違いないとして、鳥類は含むのだろうか、爬虫類・両生類は?・・・などど考え始めると、ますます何を選んだらいいかわからなくなってきました。

とりあえず他の人の記事を参考にしようと思い、 @skyleap さんの記事を読んでみると、「恐竜」を選ばれていました。
https://steemit.com/japanese/@skyleap/11-dinosaur

恐竜!



「鳥類はいいのか、爬虫類はいいのか」などと細かいことを気にしている僕の頭上を鮮やかに飛び越えるかのように、現存しない古生物を堂々と取り上げられています。この自由さ、あこがれます。

そういうわけで、僕も、@skyleap さん以上に自由な記事を書くことにしました!「現存しない動物」の上をいくもの、となれば、「実在しない動物」しかありません。

実在しない動物、想像上の動物というと、龍とか鳳凰とかがメジャーですが、今回僕が取り上げるのは「鼻行類」です。

「鼻行類?なにそれ」という方がほとんどだと思いますが、ちゃんとWikipediaにも載っています。

鼻行類(びこうるい)は、動物学論文のパロディ作品である書籍の題名、およびその書籍で紹介される架空の動物の名である。
原著の正式な題名は「Bau und Leben der Rhinogradentia」(鼻行類の構造と生活)。著者はハラルト・シュテュンプケ(Harald Stümpke)としているが、これは架空の人物であり、実際にはドイツの動物学者、ゲロルフ・シュタイナー(Gerolf Steiner、1908年5月22日 - 2009年8月14日)である。作中では、この書籍は「シュテュンプケの遺稿である鼻行類についての調査報告書を、友人であるシュタイナーがまとめたもの」としており、シュテュンプケは鼻行類の現地調査に向かった後に行方不明になったとされている。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%BC%BB%E8%A1%8C%E9%A1%9E

つまり、ドイツの動物学者のシュタイナーさんが、「シュテュンプケ」という架空の人物を作り上げ、その人が残した調査報告書という設定で、「鼻行類」なる奇妙な架空の動物を紹介したのです。学術論文のパロディといってしまえばそれまでなのですが、動物学の専門家が書いただけあって、その内容はきわめて緻密でリアル、非常に完成度の高い作品になっていて、それだけに一部に熱心なファンが存在するのです。動物学や生物学の専門家たちの中にも、著書や論文の中で鼻行類に触れる人が多いことからも、この「鼻行類」というフィクションの完成度の高さがうかがえます。

原著の出版は1961年、日本では同一の翻訳が、思索社・博品社・平凡社からそれぞれ出版されています。英語、フランス語でも翻訳が出版されており、複数の博物館で鼻行類の剥製標本(もちろん作りものです)が展示されています。僕は昔、古本屋でこの不思議な本に出会い、とりこになってしまったのです。

では、そろそろ本題に入って、鼻行類とはどんな動物なのか、紹介していきたいと思います。(以下に紹介する図はすべて思索社刊『鼻行類―新しく発見された哺乳類の構造と生活―』からの引用です)

まず、基本的な設定ですが、鼻行類の生息地域は、南太平洋のハイアイアイ群島(もちろんこれも架空の島です)のみです。大陸から隔絶した環境のため独自に進化をとげたという設定です。1957年の核実験によって引き起こされた地殻変動でハイアイアイ群島が海に沈み鼻行類もすべて絶滅してしまったということになっています。
ハイアイアイ群島.png

分類学上は、哺乳類の鼻行目 (Rhinogradentia)に属し、特殊な構造に発達した鼻を歩行や捕食に利用するというのが共通の特徴ですが、適応放散によって多種多様な形態に進化していて、全14科189種が存在していたとされます。

いくつか代表的な種を見て行きましょう。

これは最も原始的な種、ヘッケルムカシハナアルキ(学名:Archirrhinos haeckelii)です。
ヘッケルムカシハナアルキ.png

最も原始的なので、見た目は食虫類とそれほど変わりませんが、鼻がやや大きくなっていて、食事中はこの鼻で体を固定します。しかし、それ以外に鼻の使い道はなく、移動にも普通に四肢を使います。このムカシハナアルキ科から、環境に応じて様々な種に進化していったとみられています(という設定です)。

まず、発達した鼻を使って歩行するようになったのが、ナゾベーム科で、モルゲンシュテルンオオナゾベーム (学名:Nasobema lyicum)がその代表です。この種は4本の鼻を持ち、その4本の鼻を足のように使って歩行するのです。鼻に骨格はありませんが、海綿体の充血によって硬くなって体重を支えることができます。最も鼻行類らしい鼻行類といえるかもしれません。
モルゲンシュテルンオオナゾベーム.png

移動の方法は歩くだけではありません。「跳ぶ」という方法もあります。トビハナアルキ(学名:Hopsorrhinus aureus)の鼻には骨格と関節、発達した筋肉があり、その鼻を使って跳躍して移動します。
トビハナアルキ.png

さらにダンボトビハナアルキ(学名:Otopteryx volitans)にいたっては、鼻で「跳ぶ」のに加えて、耳をはばたかせて「飛ぶ」ことができます。まさにディズニーのダンボです。
ダンボトビハナアルキ.png

鼻を歩行ではなく捕食に利用する種もいます。代表的なのがフシギハナモドキ(学名:Corbulonasus longicauda)で、この種の鼻は6つあり、その6つの短く幅広い鼻が、花びらのように口のまわりを取り囲んでいます。さらに口からは昆虫を誘引する強い匂いを発していて、花と間違えて昆虫がやってくると、6つの鼻を瞬時に閉じて昆虫を捕獲してしまうのです。いわば食虫植物化した鼻行類です。だんだん発想がぶっ飛んできましたね。でも花に擬態して虫を捕まえるハナカマキリの例もあるので、あながち荒唐無稽というわけでもありません。
フシギハナモドキ.png
上の図の中にフシギハナモドキが何匹いるかわかりますか?

一番発想がぶっ飛んでるのは、ツツハナアルキ(学名:Columnifax lactans)とヤドリトビハナアルキ(学名:Hopsorrhinus mercator)の共生関係です。下の図を見てください。
ツツハナアルキ.png
まるで母親が子供にお乳を与えているように見えますが、違います。左がツツハナアルキ、右がヤドリトビハナアルキ、全く別の種で、両者とも大人です。どういうこと?

実は左のツツハナアルキは、鼻で地面に固着してしまうため移動ができず、餌を捕まえる手段も持っていません。そこで、ヤドリトビハナアルキにお乳を与えるかわりに餌を持ってきてもらうのです。一方のヤドリトビハナアルキは餌を捕まえることはできるのですが、口が特殊な形状に進化してしまって餌を食べることができなくなっています。彼らの口はツツハナアルキのお乳を吸う以外の能力を失ってしまっているのです。よってヤドリトビハナアルキのほうもツツハナアルキに餌をプレゼントしてお乳を飲ませてもらう以外に栄養を摂るすべがありません。かくしてこの両者は、お互いに完全に依存しなければ生きていけない関係になっているのです。「あれ?ツツハナアルキのオスはどうなるの?」と思った方、するどいですね。なんとツツハナアルキは雌雄いずれも常に乳汁が産生・分泌されるため、心配いりません。ここまでくると発想がもはや変態です。でもそこが最高です。

ほかにもまだまだいろんな鼻行類がいるのですが、これ以上長くなるのもどうかと思うので、このへんでやめておきます。ひょっとしてコンテスト史上最長の記事かもしれません。途中で飽きずに最後まで読んでいただいた方、本当にありがとうございます。みなさんのお気に召す鼻行類はいたでしょうか?興味をもたれた方、他の鼻行類も見てみたいという方には、『鼻行類―新しく発見された哺乳類の構造と生活―』を一読されることをおすすめします。

Sort:  

うわぁ~すげぇのが出てきたよ~www
鼻行類・・・初めて知りました~
@argonさんてもしかして宇宙人・・・

ありがとうございます!そう言ってもらえると光栄です。

実在しないのに、ここまで細かな設定があるなんて!知りませんでした… @argonさんのこの投稿を読まなかったら、鼻行類を知らないまま死んでましたね私。
古本屋で見つけたという出会いがまたいいですね。

Posted using Partiko Android

実は僕も鼻行類ファンであることを初めて公表しましたw この企画がなければ死ぬまで胸に秘めていたかもしれません。この企画に感謝です。

実在しないなんて仮想通貨みたいで面白い🤣ロマンがありますね^ ^そしてとてもお詳しい@argonさんに敬服いたします。面白い投稿だとおもいました^ ^

Posted using Partiko iOS

なるほど、仮想通貨と共通点があったとは!「実在しないものを空想し、創造することができるのは人間の特権」みたいな感じでまとめたらもっとよかったですね。

いえいえ、もう十分すぎるほど面白い投稿だと思いました(^_^)

Posted using Partiko iOS

私も動物の範囲はどこまで?鳥類はオーケーだと思いハクトウワシにしたのですが、さらに上の上をいく@argonさんかっこいい!
鼻行類は驚きです。とても興味深い記事でした。

ハクトウワシはメチャクチャかっこよかったです。みなさんの正統派の記事を読むと、こんな異端な記事を書いて怒られないかと少し不安になっていたのですが、受け入れていただいてほっとしています。

誰か鳥獣戯画やってくれないかな〜なんて密かに思っていましたが、その上を来られましたね!流石です( ̄▽ ̄)

Posted using Partiko iOS

鳥獣戯画いいですね。あれに出てくるカエルもウサギもサルもみんな憎めない可愛さがあります。

Congratulations @argon! You have completed the following achievement on Steemit and have been rewarded with new badge(s) :

Award for the number of upvotes

Click on the badge to view your Board of Honor.
If you no longer want to receive notifications, reply to this comment with the word STOP

To support your work, I also upvoted your post!

Do not miss the last post from @steemitboard:
SteemitBoard and the Veterans on Steemit - The First Community Badge.

Do you like SteemitBoard's project? Then Vote for its witness and get one more award!

今、熟読させていただきました。
めちゃくちゃ面白いじゃないですか、鼻行類。
ここまで徹底していると、実在するんじゃないかと思えてきますね。
さて、フシギハナモドキ、絵の中に4匹見つけました!

著者のシュタイナーさんの妄想力がほんとにすごすぎます。
フシギハナモドキの数、正解です!さすがですね!

Coin Marketplace

STEEM 0.18
TRX 0.14
JST 0.029
BTC 57020.43
ETH 3081.72
USDT 1.00
SBD 2.41