日本とガーナの所有権の現状から見るBitlandエコシステムの可能性

in #japanese7 years ago (edited)

日本では個人の所有権が立法により明確に定義され、その法は行政・司法によって運用されています。

そのため、私が購入した区分マンションの所有権は法によって正当に私に帰属することとなり、私はこの不動産という資本を担保に金融機関からキャッシュを借り入れて経済活動を行うことができます。具体的には、マンションの不動産価値を担保として銀行からキャッシュを借り入れ、そのキャッシュでマンションを購入し、そのマンションを他人に賃貸することで毎月の家賃収入を得て、その家賃収入で月々のローン・管理委託費などの諸経費・税金を支払っています。手元に残った差額が利益になりますし、返済が進み物件の市場価格よりローンの残債の方が低くなれば売却益を狙うこともできます。

つまり、私は銀行のお金でマンションを買い、部屋の借主のお金でそのマンションを運用しているわけです。もちろん借主が見つからなければ家賃収入は入りませんので場合によっては自費が必要になるかもしれませんが、ローンをうまく使えばこのようにほとんど自己資金を使わずに収益を生む仕組みを作ることが可能です。

私個人はマンションを一括で買えるだけのキャッシュを持ち合わせていませんが、担保という仕組みを利用することで銀行から大金を借り入れることができます。もちろん銀行は誰にでもキャッシュを貸し付けるわけではなく、相手方に一定の属性(社会的立場や年収などの審査基準)を求めます。要は銀行としてはお金を貸す以上、必ず回収できるような状態を作りたいわけです。したがって、相応に資産価値のある不動産を担保にすれば銀行からの評価は高くなります。担保とは「借主の返済が滞ってしまった場合には貸主の裁量でその不動産を処分して未返済分を回収していいですよ」という権利を貸主に与えるということです。この権利のことを抵当権といい、貸主である銀行は自身が正当な抵当権保有者であることを証明するために対象の不動産に必ず登記をします。

不動産登記とは、その不動産に対していつ誰が何の権利を持ったのかを示す証拠のことです。不動産を担保にする場合には、銀行はまず借主が本当にその不動産の所有権者であるのかを登記を見て確認します。借主の所有権が登記に明記されていることを確認できた時点で、銀行は初めて借主を信用します。そして、同じ不動産に対して銀行自身の抵当権を設定して万が一の未回収リスクを軽減するわけです。

不動産投資に限らず、何か事業を興す際に金融機関からキャッシュを借り入れることは決して珍しくありません。テナントを借りるなり何か物を作るための材料を仕入れるなり、初期投資としての元手が必要な事業は当然に存在するからです。担保を用意すれば借り入れがしやすくなりますし、中でも土地は過去も未来も永久に必要なものと考えられているため資産価値は非常に高いです。そして、その土地を担保にする場合には所有権を金融機関に証明することが必要です。

以上のことから、私が実施している不動産投資という経済活動は、日本が個人の所有権を認めてくれていて、且つ客観的にその権利を確認できる仕組みを作ってくれているからこそ実現できているわけです。言い方を変えれば、所有権を保護して客観視できる仕組みを確立できれば、銀行からの融資が下りやすくなり、経済は活発化するということです。

さて、場所を変えましてアフリカはどうでしょうか。アフリカの土地問題は非常に根が深く、その歴史を辿るとまさにカオスです。部族による縄張り争い、ヨーロッパの侵略による植民地支配、政府による縁故や富裕層優遇、法や運用系統の不整備による登記システムの機能不全など、1970年代から続く世界銀行の支援によって着実に状況は改善しているようですが、まだまだ紛争は絶えません。

Bitlandはそんなアフリカの土地紛争を解決する為にブロックチェーンによるエコシステムを開発しています。彼らはこのエコシステムによって所有権の保護機能を提供し、経済成長を加速させると言っています。一体それはどういうことなのでしょうか、彼らが何を考え何をしようとしているのか私なりに考察してみます。


まずは実際にガーナで土地を購入するために奮闘している日本人のブログをいくつか見てみましょう。

購入交渉、手続き、登記にかかり始めて、はや半年。
何にどうしてそんなに時間がかかるのか、外からでは分かり難いけれども、一番の問題は、制度はあるが、その制度が十分に浸透、使いこなされておらず、専門家でも、正しい手続き方法が誰もわからないということだろう。

ガーナに住み始めた頃、空き地には夜間近づくなと教えられた。
土地を実効支配をされないよう、Land gurad という土地の所有者に雇われた武装した警備員により、近づいた者が発砲されることもあるからと。

売り手が重複して同じ土地を複数者に販売することもあれば、一家族で保有しているものを、一人が他の家族に内緒で売りに出し、現金だけをせしめて、他の家族の同意がないと揉めたり、何の権利も有さない人が勝手に他人の土地を自分の土地を偽って販売したり。

1件目の土地購入時も同様の『土地譲渡書』を受け取ったのですが、
単なる『紙』でしたね。偽造やコピーは簡単にできるのです。

それから、家を建造中もいろんな方が来ました。
『ランドガード(周辺の土地を警備している人)』、『チーフ(首長)関係者』と
称する方々が来られて、理由を付けられてはお金を請求されました。
トラブルは避けたいので、『領収書』が発行される場合は支払いました。
彼らが『本物』かどうかはわかりませんし、調べようもありません。

どちらも2017年の記事です。ここに書かれていることが事実なのであれば、これがガーナの現状なのでしょう。専門家ですら登記の手続きを把握していない、偽造が容易な単なる紙が公式文書として扱われている、正当な所有権者が自身の土地を守るために銃で武装したガードを雇う、いずれも日本ではなかなか見られない光景です。

そこには土地が存在します。その土地に家を建てれば雨風を防げますし、もしかしたら農作物を育てられるかもしれません。土地は土地としての機能を持っており、効果的に使われれば相応の資産価値があるはずです。しかし、この記事で紹介されているような土地を銀行が融資の担保として認めることはないでしょう。いつどこで誰に奪われるのかも分からない、犯罪が横行する危険な地域の土地に資産価値などありません。この土地は本来持っている価値を失い担保として利用できなくなった死んだ資本です。

詐欺が起こるのも権利書が偽造されるのも武装兵が雇われるのも、個人の権利が公的に保護されていないからです。そしてそれが当然の日常となり、この地域の文化として根付いてしまっているからです。現地の人々にとってはこれが生きる手段なのでしょうが、このようなスラム文化では経済的な発展は望めません。

誰もが客観的に土地の所有権者を判断できる仕組みがあれば、このような紛争を抑制することができるかもしれません。もちろんただインフラを整えれば良いという話ではなく、現地の人々に対しては権利を保護することの大切さやその権利を行使した近代的なビジネス活用など、スラムを脱却して地域社会を発展させるための教育を実施していく必要があります。そのためには政府の協力が不可欠ですし、相応の人的・物的リソース、そして何より新しい文化を根付かせるための膨大な時間が必要です。

Bitlandがメスを入れようとしているのはこういう世界のようです。

登記をブロックチェーンで管理することができれば、過去に登録されたすべてのデータの変更履歴はエコシステム上に残ります。これにより悪質な改竄を白日の下にさらすことができるため、不正行為の抑制効果が期待できます。今商談をしている目の前の相手は本当にこの土地の所有権者なのか、個人所有なのか家族で持分を持っているのか、エコシステム上で登記情報を確認できれば詐欺被害の回避に役立ちます。コインを入れてボタンを押すだけでジュースの売買契約が成立する自動販売機のように、スマートコントラクトによって土地取引における一連の手続き(売買契約や登記など)をWeb画面から簡易に行うことができるようになればあらゆる煩雑な手間を簡略化できます。手続き上の不明点はBitlandのサポート窓口に問い合わせれば済むわけです。

スラムを排除して人々が生活しやすい文化が地域に根付けば自ずと経済は回りだします。その土地には資産価値が生まれ、銀行の評価も変わってくることでしょう。すべてのスラムを排除することは不可能かもしれませんが、都市部から少しずつでも安心で安全な地域を拡大していくことが国益の向上につながります。エコシステムによる所有権の保護機能は、近代的な文化を構築するための足がかりとなるはずです。こうして考えてみるとBitlandプロジェクトは事業であると同時に政治でもあり、成功すれば革命と呼ばれる可能性すら秘めているように思います。


さて、エコシステムにはもう1つ、REITという強力な機能があります。ブロックチェーンによる透明性が所有権の侵害を防ぐ盾だとすれば、REITは国家の経済成長を加速させる起爆剤だと考えられます。

REITとは、Real Estate(不動産) Investment(投資) Trust(信託)の頭文字を取った略称で、組織が複数の投資家から集めた資本を使って不動産を購入し、その物件の運用や売却によって得た収益を投資家に分配する仕組みのことです。

一般社団法人投資信託協会のWebサイトにREITの分かりやすいイメージ図があったのでリンクしておきます。
https://www.toushin.or.jp/reit/about/what/
https://www.toushin.or.jp/reit/about/scheme/

一般的に投資家個人で不動産投資を行う場合、所有物件を賃貸に回して毎月の家賃収入(インカムゲイン)を得るか、売却して売却益(キャピタルゲイン)を得るかの2通りがあります。いずれにも共通していることはまず自分で物件を所有する必要があるという点ですが、当然ながら不動産は非常に高価ですのでなかなか手を出しにくい面もあるかと思います。

そこでREITの需要が生まれます。REITでは投資家本人が直接物件を購入するのではなく、投資法人が購入する物件に複数の投資家が出資するイメージですので、まとまった資本がなくても不動産投資に参加できるのが特徴です。物件が収益を上げれば、自分の出資額に応じた分配金を割合で得ることができます。

例えば、市場価格1億円の物件があるとします。個人で購入するには1億円が必要となり手を出しにくいですが、REITによって100万円程度からの出資が可能になるのであれば参加しやすくなりますよね。このようにREITを利用すれば投資家のリスクを軽減しつつリターンを狙いにいくことができます。途上国であるアフリカの不動産市場のように、ハイリスクだけど今後値上がりしそうな物件はREITと非常に相性が良いと個人的には思います。


Bitlandの強いところはそのREIT案件を出すのが政府だという点です。Bitlandが今後何をやろうとしているのか色々想像してみます。

まず、エコシステムに最初に必要となる作業は「不動産情報の登録(登記)」です。住所、面積、所有権者といったアフリカの土地情報を、Bitlandは政府及び地元住民と協力してエコシステムに登録していきます。既に所有権者が明確な土地はその本人(個人であったり村や部族といった共同体であったり)の正統なる土地として登記し、持ち主不明の土地についてはおそらく政府の所有物として登記されると思います。職員(測量士)や現地の人々がその足で実地調査をしたり、ドローンで広域的な調査をしたり、そうやって集めた生の土地情報と既存の政府データベースを照合して不備がないように登録をしていきます。アフリカの広大な土地に対して途方もない作業ではありますが、このプロセスを経ることで既存の所有権者の権利を正当にブロックチェーンで保護することができるわけです。これだけでも数年スパンの年月が必要な作業と思われます。

同時にネットワークの整備も必要です。アフリカでも都市部を中心として徐々に携帯電話などモバイル端末の普及が広がっているようですが、Webサービスはまだそれほど利用されてはいないようです。というのも、地元の電力会社やプロバイダのサービスは不安定で、日本のように24時間365日いつでもどこでも接続できるインターネット環境が存在しないからです。せっかくエコシステムにデータを登録していってもアクセスする手段がなければ何の意味もありません。そこでBitlandは自分たちでネットワークセンターを立ち上げてアクセス環境を地元の人々に提供します。

ブロックチェーンエンジニアとしてプロジェクトに参加しているBryceWeinerもこないだツイートしていましたが、実際にBitlandは地元にインフラを提供し始めているようです。
https://twitter.com/BryceWeiner/status/930236653305708545

プロジェクトの進行とともにこのセンターを増設していき将来的には国内全域で接続環境を作ることを掲げています。おそらく日本のモバイルキャリアのようにwifiスポットを増やしていくイメージだと思いますが、一部のBitlandセンターは単にネットワークを提供するだけでなく、人々の文化を育むための教育機関やコミュニティ施設として機能することを目指すとホワイトペーパーで力説しています。これについてはまた別の機会で記事にするとして今回は割愛しますが、興味のある方はこちらのホワイトペーパー日本語訳をご参考ください。
https://steemit.com/japanese/@pierrot00/2aqnu4-bitland-nigeria

さて、ここまでのプロセスが着実に進めば、エコシステムに登記される不動産情報は増えてきていて、そのデータベースに人々がアクセスできる環境も備わっているはずです。ここまで到達するのに何年かかるか分かりませんが、これでようやくインフラが整ったと言えるでしょう。では想像できる次のアクションはなんでしょうか。

私が政府の立場であれば、せっかく所有権を保護するインフラが整ったのだから、今後はこれらの土地を有効活用していきたいです。例えば民間事業を促進するための補助金支給や税制優遇などの事業支援政策を打ち出せば、土地を担保に銀行で借り入れを行って様々な事業に挑戦する実業家が増えるかもしれません。また、今後の人口増加に対応するために住宅地の建設や交通網の整備といった国を挙げての都市開発も必要でしょう。かつて高度経済成長と呼ばれた昭和の日本のように、民間事業と公共事業を並行稼働して経済をフル回転したいと私なら考えます。

だとした場合、ここで1つの問題が生まれます。このような経済政策を進めるには当然に莫大な予算が必要です。アフリカ諸国が都市開発の為にどの程度の予算を割けるのかはまだ調査できていませんが、そもそもが発展途上国であるため潤沢な資本があるようには思えません。国内の限られた予算の中だけで進めていくのではどうしても市場規模は小さくなり、急速な経済成長は望めない可能性があります。

そこで活きてくるのがエコシステムによるREITです。即ち、都市開発費を国内だけで捻出するのではなく海外投資家からも誘致するわけです。先進国の潤沢な資本を途上国に流入できれば経済の成長速度は大きく加速します。国外の投資家の援助で都市開発を実現し、その都市で生活する人々が消費をする、その経済活動で生まれた利益の一部が投資家に還元され、一部が政府に税金として徴収される。この仕組みを提供するBitlandは投資家と政府という優良顧客を得られるわけで、このサイクルを実現できれば投資家にも政府にもBitlandにもwin-win-winの構図が出来上がります。ホワイトペーパーに書かれている「先進国と途上国の相乗効果」とはおそらくこの構図のことでしょう。

そして何より、この構図によって最大の恩恵を受けるのは現地で暮らす人々だと思います。それまで閉ざされたローカル世界の腐敗によって権利を虐げられてきた人々が、インターネットとブロックチェーンというイノベーションによって権利を守られ豊かになれるのだとしたら、その事実は今後の現地住民にとって大きな希望となるはずです。90年代以降、インターネットによって日本人の生活環境は大きく変わりましたが、今後同じことがアフリカでも起こり得ます。


当然ながら、投資家は投資判断を下すうえで様々な要素を検討材料とします。マクロでは世界情勢をはじめアフリカ諸国やBitlandへの信用度・期待度・市場の成長可能性など、ミクロでは投資物件の資産価値・利回り・出口戦略など、あらゆる要素が複合して投資金額が決定されます。

投資先として「何となく目についたアフリカの土地」よりも「政府が公式に都市開発を計画しているアフリカの土地」のほうが信用度や期待度が高いことは言うまでもありません。先進国への投資よりも途上国への投資のほうがリスクは大きくなりますが、上述の通りREITであれば安価に投資を始められます。Bitlandのエコシステムであればそういった安心が機能として提供されるはずです。

その一方で、そもそもエコシステムは本当に開発が進んでいるのか、政府とはどこまで話が進んでいるのか、資金調達状況はどうかなどなど、外部から目に見えない部分=投資リスクもこのプロジェクトは相応に含んでいます。日本だと情報の仕入れもなかなか難しいので尚更ですね。

ただ、これはあくまで私個人のスタンスですが、全てのプロジェクトは見えない部分があって当然だと思います。私はドラゴンクエストが好きですしスクウェアエニックス株も持っていますが、次回作の開発スケジュールや予算など内部状況を公開してほしいとは思いません。それらはドラクエの面白さとは何の関係もないからです。面白いゲームが生まれて売上に繋がれば遅かれ早かれ株価は上がると考えていますので、ドラクエのプロジェクトチームにはただただ面白いゲームを作ってくれることを期待しています。そしてそれができると思っているから私はスクエニ株を持っています。

cadastralホルダーで今嘆いている人って多いと思うんですよ。私も最初は短期〜中期トレードを想定して買ったので気持ちは分からないでもないです。しかし、いざ真剣にBitlandがやろうとしていることを調べてみると、どうみても短期で成果が出るプロジェクトではないんですよね。エコシステムのパイロット版が動き出したとか、どこそこの地域の登録データがXX万件を超えたとか、初めて売買が成立したとか今後も細かいニュースは色々あるんでしょうけど、実際にこのプロジェクトが世間に認められて大金が動き出すのって超大口の契約が成立したときだと思うんですよ。それっていつでしょう。上述の通りプロジェクトはそのインフラ環境を構築するだけでも数年かかると思いますし、その頃ってもはや今みたいに加熱した暗号通貨ブームは終わってるんじゃないですかね。

なので以前の記事でも書きましたが、暗号通貨ブームによる公開市場(openledger/ethrdelta/waves)での値上がりを期待する人は早いとこ他のコインに移ったほうがいいと個人的には思います。反対に、私のように十数年後の実需を期待している人にとっては今は充分買い時と言えるのではないでしょうか。

売るのも買うのも自分の判断であり自己責任ですので、自分で納得できる選択をしていきたいと私は思います。

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