僕たちはまだ、卍解ができると思っている。【BLEACH再考】

「BLEACH」をご存知だろうか？週刊少年ジャンプにおいて2001年より連載を開始し、コミックスは全74巻、累計売上は9000万部を突破した言わずと知れた人気少年漫画である。
しかしながらその扱いは各方面、特にメディアにおいて低いように感じる。ONEPIECE やNARUTOに巻数や認知度の差で水をあけられていることは想像に難くない。また、HUNTER ×HUNTERはアメトークで真っ先に取り上げられ、ケンドーコバヤシを中心としたファンの芸人らが熱い論を交わした。しかしながら、BLEACHはミュージカル化、メディアミックスなどの点においても実績は申し分ないはずだが、日本の少年ジャンプ論壇ではあまり議論がなされないまま、「内容が薄い」だの「よくわからない」だのと悪評を浴び、よく分からないまま放置されているのではないか。

これでは日本は良くならない。BLEACHはこんなにも魅力に溢れているにもかかわらず、論壇の雰囲気に流されて魅力に気付けていないのではないだろうか。僕は1ファンとしてあまりにも悲しい。ここで僕はBLEACH界隈に一石を投じる思いでこのノートを書く。

【BLEACHの構成】
BLEACHは、大きく分けて10個のセグメントに分けられる。wikiによれば以下の通りだ。

死神代行篇
単行本：1巻 - 8巻
尸魂界潜入篇
単行本：9巻 - 14巻
尸魂界救出篇
単行本：14巻 - 21巻（第124話 - 第181話）
破面出現篇
単行本：21巻 - 26巻（第182話 - 第228話）
虚圏救出篇
単行本：26巻後半 - 35巻（第229話 - 第315話）
過去篇
単行本：36巻 - 37巻前半（-108 - -97）
空座決戦篇
単行本：37巻中盤 - 48巻（第316話 - 第423話）
死神代行消失篇
単行本：49巻 - 54巻（第424話 - 第479話）
千年血戦篇
単行本：55巻 - 60巻（第480話 - 第540話）
千年血戦篇・訣別譚
単行本：61巻 - 74巻（第541話 - 第686話）

（https://ja.wikipedia.org/wiki/BLEACH　より）

しかしながら、これを全て読む必要はない。正確には、49巻以降は読まなくても良い。更に言えば、21巻までがもっとも面白いので、時間のない皆様には21巻までの通読をオススメする。理由としてはただ一つで、最後の方は何をやっているかよく分からないからだ。戦っているのか、詩を吟じているのか我々素人には区別がつかない。SF作家のアーサー・C・クラークは「十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない」と記しているが、それとほぼ同じ現象がBLEACHでも起きている。高尚かつ難解なシーン展開が続くため我々読者には理解できないことが多い。卓越したクリエイティブは時として我々を遠近法の彼方に置き去りにする。

【BLEACHのストーリー】
BLEACHのストーリーは、wikiでは概ね以下の通りだ。

家族を守るために悪霊・虚（ホロウ）を退治する死神になってしまった高校生・黒崎一護とその仲間達の活躍を描く。
主な舞台となるのは東京にある架空の町・空座町（からくらちょう）。初期の死神代行篇は、自身に死神の力を与えた死神の少女・朽木ルキアを相棒に、一護が虚絡みの騒動に巻き込まれていきながらも解決にあたるエブリデイ・マジック的要素もあったが、尸魂界篇以降はその要素は失せ、敵対勢力とのバトル中心のストーリーを展開する。ストーリーの設定や伏線は「前もって考えている」とジャンプフェスタ等で作者が公言していたが、実際はキャラクターを先に作り、漫画を描きながら考えている[1]。
本作は死神が現世と霊界の均衡を保つ世界の調整者として魂魄の成仏や虚の退治を行う者として設定され、人間達が住む現世を守護している世界観が描かれている。また、本作の舞台は以下のようになっており、ストーリーの進行に伴い、場面の転換がされる。
現世（人々の生きている世界で空座町が主な舞台）
尸魂界（ソウル・ソサエティ）（天国にあたり、普段死神もここで暮らしている）
地獄（劇場版第4作『地獄篇』の舞台、生前に殺人など重い罪を犯した者が送られる）
虚圏（ウェコムンド）（虚達が住む砂漠だらけの世界）
　ざっくり言えば、主人公の黒崎一護が、死神になってしまい、ヒロインの朽木ルキアとともに現世や死神が存在する世界などの異次元空間を行ったり来たりして、オシャレな感じで友情・努力・勝利を体現していくストーリーだ。そこに様々なキャラクターが複雑に絡まり合って話は進行していく。登場するキャラクターは多岐にわたるのでおそらく全て覚えるのは難しいだろう。しかしながらBLEACHにおいてはストーリーがわからなくて困ることはほとんどない。ストーリーがなくても楽しめる。プロットに重きを置かなくても、台詞回しであったり背景画などで十分に楽しむことができるためだ。さながら歌舞伎のようなものだと思ってもらって構わない。考えるのではなく、感じて欲しい。

【BLEACHの魅力】
❶漢字が読めない。
以下の画像を見て欲しい。

これは2017年度の漢字検定３級の問題だ。高校入学レベルの漢字の読み方問題だが、答えることは難しくないだろう。

これはどうだろうか。いわゆる熟字訓というやつで漢字の塊単位で意味を乗っけたものだ。クイズ番組でも定番だろう。
答えは上から「ヘチマ、ツクシ、アスパラガス、ショウガ、ラッキョウ」となっている。単体でも意味の類推は難しい。

では以下はどうだろうか。

⑴卍解
⑵虚
⑶破面
⑷十刃
⑸滅却師
これはBLEACHに頻出する読解必須の熟語だ。しかしながらこれをすんなりと読むことのできる人は少ないだろう。一つ目は卍（まんじ）？４番はジュウバ？見当がつかないはずだ。
答えは以下の通りである。

⑴卍解→ばんかい
⑵虚→ホロウ
⑶破面→アランカル
⑷十刃→エスパーダ
⑸滅却師→クインシー
　皆目見当もつかないはずだ。辞書において、「虚」に「ホロウ」という読み方が付随されることは永劫ない。しかしながらBLEACHでは、このような読み方もわからないものを読むスキルが必須となる。それは未知なるものに接したときのように我々の既成観念をぶち壊してくれるのだ。
アメリカのエッセイストであるスーザン・ソンタグは「常識を疑え」と常に人々を啓蒙した。我々もBLEACHに倣おう。学ぶことは、真似ぶことだ。

❷キャラクターの名前が難しい
版権の問題でキャラクターの画像を掲載できないのが大変心苦しいが、以下の名前を見て欲しい。

井上織姫（いのうえ・おりひめ）
石田雨竜（いしだ・うりゅう）
茶渡泰虎（さど・やすとら）
これはメインキャラクターの名前だ。とても素敵ではないか。「雨」だの「姫」だのと中学二年生の男の子が好きそうなワードで溢れている。こんな名前に生まれたかったと自分を悔やむことが多々あった。
とは言え、これくらいはまだ序の口だ。

日番谷冬獅郎（ひつがや・とうしろう）
愛染惚右介（あいぜん・そうすけ）
朽木白哉（くちき・びゃくや）
これは先に述べた尸魂界潜入篇（ソウルソサエティ）を司る司令隊長の名前だ。いずれもあまりに完成度が高い。
それにしても、伝統工芸の「愛染」を苗字にしてしまうとはとんでもないことである。米津玄師も驚くだろう。また、３つ目に至っては、白哉（びゃくや）＝白夜、すなわちただの自然現象だ。「杉浦太陽」など自然をモチーフにした名前も増えてはいるが、「夜」をつける人はいないだろう。どんなdopeな子供に育つかわからない。

しかし、極め付けはこれだ。

ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァング
アーロニーロ・アルルエリ
バンビエッタ・バスターバイン
もはや国境を超えている。そう、BLEACHは国籍を超えた作品なのだ。BLEACHの登場人物名は、おそらくドイツ語圏が起源と一部有識者の中で定義がなされている。それにしてもこの名前を考えつくセンスに脱帽だ。更に言えば、彼らはメインキャラクターでもなんでもない。「アーロニーロ・アルルエリ」に至ってはそこそこ早い段階でそこそこのキャラクターにあっさりとやられてしまう。こんなにも素晴らしい名前を持って生まれ落ちたにもかかわらず、だ。一流の寿司屋はマグロの中落ちだけを使い、身を捨てるという。さしづめそのようなことだ。

ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァング
アーロニーロ・アルルエリ
バンビエッタ・バスターバイン
もう一度見て欲しい。そして声に出して名前を呼んで欲しい。

ただの声に出して読みたい日本語である。
NHKもびっくりだ。
❸呪文が難しい
少年漫画につきものの必殺技が無論BLEACHにも存在する。BLEACHでは「霊力」という強さのバロメーターが存在する。この力を操って、瞬間移動したり、手からビームを出したりする。それに加えて、基本的に全員が「斬魄刀」と呼ばれる刀を持っており、この刀に込められた特殊能力を解放して戦う。それには段階があり、一段階目の解放を「始解」そして二段階目の解放を「卍解」と呼ぶ。そしてこの解放する際の呪文が難解なのだ。

軋れ、「パンテラ」
散れ、「千本桜」
砕けろ、「鏡花水月」
射殺せ、「神槍」
前半の文節では、刀にどのようになって欲しいかを述べ、「」内ではその刀の名前を呼ぶ。すると特殊能力が発生するのだ。そしてもう一段階上に行きたい時には、「卍解」と叫ぶと威力が更に増す。わかりやすく例えるならば、あなたが犬を飼っていて、その犬をディレクションしたい時に「そっちに行くな、『ポチ』」と言うだろう。そんなもんだ。

更に、BLEACHの世界ではもう一つ、鬼道と呼ばれる呪文が存在する。先に述べた「霊力」を使い、手から光線を出したりする。しかしそれを出すためには難解な呪文を唱えなくてはならない。例えば以下のようなものである。

"君臨者よ"
"血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ"
"真理と節制"
"罪知らぬ夢の壁に僅かに爪を立てよ"
破道の三十三　『蒼火墜』
以上のように唱えれば、手から炎が出る。「罪知らぬ夢の壁」ってなんだろうか。疑問は深まる。
しかし、まだこれには留まらない。

「”滲み出す混濁の紋章”
“不遜なる狂気の器”
“湧き上がり・否定し・痺れ・瞬き・眠りを妨げる”
“爬行する鉄の王女”
“絶えず自壊する泥の人形”
“結合せよ”
“反発せよ”
“地に満ち己の無力を知れ
”破道の九十　『黒棺』」
もう何を言ってるかよくわからない。「爬行する鉄の王女」はただのエクソシストだし、「絶えず自壊する泥の人形」に至っては現象の理解ができない。もう己の無力を知ったので許して欲しい。

とまあこんな風にしてBLEACHキャラクターは戦っているのだ。

❹ポエムが難しい
BLEACHの魅力はキャラクターや呪文に止まらない。なんと、コミックスの表紙に「先生自作のポエム」が掲載されているのだ。BLEACHは総合芸術であるため、コミックに隙はない。

ポエムを早速見てみよう。

もし　わたしが雨だったなら
それが永遠に交わることのない
空と大地を繋ぎ留めるように
誰かの心を繋ぎ留めることができただろうか
memories in the rain
剣を握らなければ　おまえを守れない
剣を握ったままでは　おまえを抱き締められない
RIGHTARM OF THE GIANT
軋む軋む　浄罪の塔
光のごとくに　世界を貫く
揺れる揺れる　背骨の塔
堕ちてゆくのは　ぼくらか　空か
WHITE TOWER ROCKS
主よ、我々は
孔雀を見るような目つきで
あなたを見る
それは期待と、渇仰と
恐怖に似た底知れぬものに
縁どられているのだ
BARON’S LECTURE FULL・COURSE
もはや何も言うことはない。ここまで読んでいただいた皆さんなら言わずともわかるだろう。これに関して素人が邪推を入れるべきではない。それぞれが、それぞれの解釈で好きにすればいいと、僕はそう思う。

BLEACHの魅力はまだまだこんなものではない。それでもこのNOTEがなににかのきっかけになりますように。作者の久保帯人先生へ敬意を示す。

Dear KUBO TITE