『ファウンダー ハンバーガー帝国の秘密』~抜け殻のような栄光・霞のような欲望 / Steemitをはじめました

in #japanese7 years ago (edited)

Steemitをはじめることにしました。

2017年7月に@sato-yusukeさんと暗号通貨の勉強会に行った際、壇上でドイツから来ていた野崎さんがSteemitについて詳しくお話をされ、ブロックチェーンベースのソーシャルメディアということで強い関心を抱いたのですが、huluで『ゲーム・オブ・スローンズ』を見たり、amazonプライムビデオを『正解するカド』を見るなどするうちに時が過ぎ、初投稿は今日の日となりました。

どうぞよろしくお願いいたします。

2017年7月29日より公開中の映画『ファウンダー ハンバーガー帝国の秘密』を、渋谷シネパレスにて鑑賞しました。
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マクドナルドをフランチャイズ展開し、世界有数のハンバーガーチェーンに引き上げた経営者として知られるレイ・クロックのマクドナルドの創始者・マクドナルド兄弟との出会いからフランチャイズ契約の締結、業績の急上昇と経営方針を巡る兄弟との対立までを描いた映画です。

主演は『バットマン』『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』で知られるマイケル・キートン。監督は『ウォルト・ディズニーの約束』のジョン・リー・ハンコック。脚本は『レスラー』のロバート・シーゲル。
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『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』への主演とその信じられないくらい素晴らしい演技によって息を吹き返し、晩年にして『ビートルジュース』『バットマン』などポップで毒があるサブカル映画に続々出ていた頃と比肩する、あるいは上回るキャリア最盛期を迎えた感があるマイケル・キートン。

『バードマン あるいは~』以後には『スポットライト 世紀のスクープ』や、MCU最新作にして2017年夏休み映画の王道中の王道、『アメイジング・スパイダーマン』の犠牲がある意味実ったといっても良い『スパイダーマン:ホームカミング』に出演するなど、作品にも恵まれており、なおかつ演技の幅も広くなった印象があります。

『バードマン あるいは~』でマイケル・キートンが演じた、落ち目のハリウッド俳優リーガン・トムソンは「はまり役」という言葉を何回重ねて使っても違和感が無いほどのはまり役でした。

それもそのはず『バードマン』は『バットマン』をもじったタイトルで「3本のブロックバスター映画に主演し、大人気を集めながらいまは落ち目」という人物像は、マイケル・キートンを”いじった”ようなものだったのです。
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リーガン・トムソンは、かつてバードマンを演じた俳優としか扱われない現状を打破しようとブロードウェイに進出し、レイモンド・カーヴァーの『愛について語るときに我々の語ること』を舞台向けに演出し、自ら主演を務めます。
現代アメリカのブロードウェイにおいてレイモンド・カーヴァーが古臭いことは言うまでもなく、リーガンは自分を嘲るもう一人の自分の声に悩まされることになります。

『バードマン』として手に入れた名声が忘れられず、かつてそこにありながらもいまはもう無い抜け殻のような栄光を泥臭く、哀れに、肉体をフルに使って格好悪く追い求めるリーガンの姿。
その有り様と、イニャリトゥ監督らしくスタイリッシュな映像の対比が『バードマン あるいは~』の最大の魅力でした。

名声ほど不確かで拠り所がなく、あてにならないものも無いでしょう。どれだけ人気のYouTuberであろうとモデルであろうと経営者であろうと落ちるときは一瞬で落ちるものです。

『ファウンダー ハンバーガー帝国の秘密』のレイ・クロックもまた不確かで、何処か曖昧な「成功」に囚われた人物だったと言えるでしょう。

52歳当時のレイ・クロックは、シェイクを作る機械・マルチミキサーのセールスマンとして全米を飛び回っていましたが満足な成果を上げられず、マクドナルドのフランチャイズ展開を目論見、融資の取り付けに回った際には、担当者から過去のミキサーのセールストークを持ち出されて馬鹿にされる始末です。
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新しいものにはすぐに飛びつき、夢中になるレイの奔放さには周囲の人物も飽きれており、冷笑的に扱っていた様がうかがい知れます。
レイにはピアニストとしての一面もあり、後に妻となる女性とともにジャズピアノを弾く場面もあります。

ピアニスト、マルチミキサー売り、ハンバーガーチェーンの経営者。新しい物好き。レイの生きざまはよく言えば精力的で、悪く言えば根無し草のようで、筋と言える筋がありません。
少なくとも妻には「この人は何をしたいのか分からない」と思われていたでしょう。

マクドナルドのチェーン展開に関するマクドナルド兄弟の同意を取り付けたレイが、過去の失敗に対するやりきれない思いをぶつけるように”今度こそ成功して見せる”と、新店舗を出す空地の土を手で握る場面があります。

失敗を重ねてきた中年男が一念発起する場面として見れば、このシーンはエモーショナルです。

しかし、僕には彼にとっての成功とは具体的にどのようなものかいまいちピンと来ませんでした。
マクドナルドが全米展開すれば彼にとっては成功なのでしょうか――確かにヘンリー・フォードばりの業務の細分化と効率化によって、考えられないほどスピーディーにハンバーガーを提供するマクドナルドのシステムは画期的です。

しかし「スピーディーにハンバーガーを提供すること」でレイは、人々にどのような価値を提供したかったのでしょう。
本作の中では、回答らしい回答は示されません。少なくともマクドナルドのカスタマーに対するものは。

あえて言えば、彼はスタッフに対しては積極的な語り掛けをしています。
レイはフランチャイズ・オーナーやスタッフに対し「マクドナルドはファミリーだ」と呼びかけます。しかし現実にはレイの家族生活は崩壊しており、最終的には離婚と略奪婚をしているのです。

彼の言葉からは常に薄っぺらさや、中心の無さのようなものが感じられます。
まるで彼は成功そのものを欲望し、それが「何のための成功か」「何に取り組んだうえでの成功か」「誰に対し、何をしたいのか」はどうでもいいかのようです。

マクドナルドのCEOとして講演に臨むレイが、鏡の前でスピーチの練習をしながら言葉に詰まる場面があります。
鏡とは自らを見つめなおす装置です。自らを見つめた瞬間に、レイが己の無さに気づく――それでいて、彼は社会的には大きな成功を収めている。レイをハンバーガー帝国の「裸の王様」のように描くこの場面は本作の白眉でしょう。

本作の残念な点は、音楽ではないでしょうか。音楽が印象的に使用された場面は中盤、レイがピアノを弾いた箇所程度のものであり、基本的には本作のサウンドトラックは毒にも薬にもなっていません。
せっかく、ハンバーガーショップの店先でジュークボックスを聴く若者のショットがあるのに彼らが何を聴いているのかよく分からないのです。
彼らはチャーリー・パーカーを聴いているのかマイルス・デイヴィスを聴いているのか、フランク・シナトラを聴いているのか、バディ・ホリーを聴いているのか気になるというものです。

フィフティーズは郊外に多くの一件家が建ち、テレビが普及し、ロックンロールが誕生して若者が性に奔放になった時代です。当時のアメリカの保守層からはエルヴィス・プレスリーの腰の振りは卑猥だとして、プレスリーは批判の対象となりました。
60年代に公民権運動が起きる前の時代であり、人種差別も色濃く残っていました。
クインシー・ジョーンズは自伝で、フランク・シナトラが人種差別発言を日常的にしていたことを明かしています。

恐らく、マクドナルドを始めとするハンバーガーショップに集まっていた客には若者が多かったでしょう。またそのほとんどは白人だったのではないでしょうか。人種のるつぼのアメリカ社会を描いた映画としてはちょっと不思議なくらい、この映画には黒人や黄色人種が出てきません。これは恣意的なものや政治的な意図があるというよりは、本当に当時のマクドナルドには白人が多かったのでしょう。

彼らがどのような音楽を聴いていたのか。レイはどのような音楽を日常的に聴いていたのか。そうした描写を一つ一つ重ねることで、単なる「レイ・クロックの自伝的映画」の域を超えて、フィフティーズのアメリカを描いた映画として非常に魅力的な作品になったはずです。

とはいえ、創業当時のマクドナルドを完璧に再現した美術は素晴らしく、その様を見るだけで1950年代のアメリカ人の日常生活を追体験できるかのようでもあります。

本作を見た多くの観客はレイ・クロックという人物に対して好感度を抱くわけではないでしょう。むしろ現在のマクドナルドに対してネガティブな印象を抱くかもしれません。そうした作品が実在の人物名と企業名を扱う形で制作され、グローバルに公開されたのはすごいことだと思います。

一本の映画作品が企業の圧力などによって非公開となるのではなく、きちんと受け手の下へと届けられたという意味では「言論の自由」「表現の自由」に関する一種の記録として、本作は必見と言えるでしょう。

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はじめまして。よろしくおねがいします!Steemitはまだまだ不慣れで、ご迷惑をおかけすることもあるかもしれませんが楽しんでサービスを利用したいとおもいます。引き続きお願いいたします。

はじめまして!!
バードマンは飛行機の中でたまたま見てマイケル・キートンがすごくよかったので、この映画も見てみたいと思います。
これからも批評を楽しみにしてます!!

はじめまして。ありがとうございます!バードマンは素晴らしい映画ですよね。このブログの中では触れなかったのですが、エマ・ストーンも最高でしたし、サントラも良かったです…!
これからもマイペースに見た映画の感想など書いていきたいと思います^^

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