映画感想#2 「羅生門」(1950) オススメ度7.4/10
言わずとしれた世界の黒澤明監督の「羅生門」
名前は聞いたことがあったものの、未だにみたことがなかったのでみてみました。
日本映画として初めてヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞、アカデミー賞名誉賞を受賞した作品で、未だ語りづがれる日本映画の名作です。
原作は芥川龍之介の「薮の中」。今も人間の自己欺瞞の恐ろしさを感じさせる
時は平安時代、悪名高き京の盗賊が、森の中で通りかかった侍夫婦の妻を奪い夫を殺害、現場から高価な短刀が奪われた。第一発見者のキコリと旅法師は尋問の後、雨が降りしきる羅生門の前で「わかんね~、さっぱりわかんね〜」と途方にくれます。
登場人物は殺された男とその妻・そして殺害した男の3名。
「3人が森の中で出会う→盗賊が妻を手篭めにする→夫が殺される→女が逃亡する」
という同じストーリーの中で、盗賊と妻の証言は全く辻褄が合いません。死人の夫までもが巫女を通じて証言しましたが、その内容も恐ろしいほど2人と異なります。客観的事実は一つしかないにもかかわらず、渦中の3人はそれぞれ全く異なる事件の様相を描き出し、その恐ろしさはまさに人間の性を映し出しゾッとさせられます。
「人は事実を見るのではなく、自分がみたい解釈をみる」とは真実で、人間の持つ自己欺瞞をこれでもかと表現し尽くした洞察力と表現力に感服してしまいます。そして、、、最後にキコリが語り始めます。
自らが死罪となってですら味わいたくない「恥」とは?
男女関係が絡み、互いのエゴと自尊心がむき出しになるさまは生々しくゾッとします。
テンポはややゆったりで退屈か?ただ、三船敏郎・京マチ子の演技は良き
現代映画に慣れきった自分にとっては少しテンポはゆっくりだなぁという感じでした。スマホを横で触るレベルです。
とはいえ内容の普遍性と力強いカット割は見るものを選ばず、万人に対して高いレベルで感性を刺激し、黒澤・三船ペアが醸し出す荒々しさは当時は大きな影響力があったのだろうと思わされます。
男女関係の繊細な機微が絶妙に描かれているこの作品の中で、三船敏郎だからこそ醸し出される臨場感も一つの味わいどころです。
この映画が有名になるきっかけも皮肉が効いていて味わい深い
公開当初は難解な作品ということで、評価・興行収入共に芳しくなかったようです。大映製作会社社長の永田は「訳が分からん」と一蹴したようです。
日本映画のヴェネツィア国際映画祭の依頼で、日本映画の出品作を探していたジュリアーナ・ストラミジョリという女性が「羅生門」を見て感激し、自費で英語字幕をつけヴェネツィア国際映画祭に出したところ金賞を獲得。それを期に黒澤の評価は覆り、世界の黒澤として頭角を現していくこととなりました。
受傷直後の黒澤監督の談話です。
「実は僕、あの写真(映画)がヴェネチアに送られていたということは知らなかったんだよ。あれをヴェネチアに送ってくれたのは、ほんとにあの女性、イタリー・フィルムのストラミジョリさんの功績でね。 受賞祝賀会の時にも言ったんだけどね、日本映画を一番軽蔑していたのは日本人だった、その日本映画を外国に出してくれたのは外国人だった。 」
人は都合の良いように物事を解釈する、という羅生門のテーマにあいまって、日本映画の成功もなかなか皮肉が効いていてより一層味が出ています。
この事実を知った上で見てみるのもまた趣深いです。
私、この映画を観ていますけど、なるほどー、そういう感想もあるんですね。お勉強になりました。全編に流れるボレロ風の音楽も印象的でした。他にも日本映画にお詳しそうですね。またこのような記事、期待しています。
いえいえ、お勉強だなんて。。。
確かに、音楽もとても印象的でしたね〜。
これまで映画をあまりみてこなかったので、これから教養を深めたいと思っている次第です!