避けて通れぬ齢道
ある日の午後 それは突然やってきた
自分には考えられない出来事のようだった
もっと遥か遠くにあって、いつかという日になって
ようやく自分に訪れるモノだと思っていた
いつものようにこの手があり
いつものようにこの足があり
いつものようにこの声がある
全てがいつものようでいて
まるで別世界に取り残されたようだ
公園のベンチに腰掛け
昼間の強い太陽に目をやると
やはり、こちらを見るなとばかりに
強い輝きと熱を両目に刺してくる
喫煙とも禁煙とも表示されていない
このベンチでは手元にある一本のタバコを
喫むコトは許されるだろうか
辺りに子供はいない
妙に広い公園には多くの木が植えられて
その影が短く、濃く滲んでいる
意識があるのは わたしの内側だけで
誰も中には入りたがらない
わたしもわたしの扉を開こうとはしなかった
悲しみはそれなりに
苦しみもそれなりに
喜びは少しばかり
それで十分だったはず
それなのに どうしてこんなに
今、わたしの内側は渇いているのだろう
誰もいない午後の公園で
ひとりタバコに火をつける
目一杯、息を吸い込み
こほっと小さな咳をする
口から吐き出される煙は
みるみる外気と混じり合って
少しの間に消えてしまった
わたしの年月も
このようなモノなのだろうか
あとどれくらいこの世界に
影を落としていられるのだろうか
二ヶ月前ほどに出会った医者は
さらりと言う
わたしの齢の限りについて
わたしの歩いた道について
わたしが消える方法について
詩:一ノ関 晏由美