狂人の最期
一度、刺してしまえば
あとは何度も繰り返し
繰り返し刺し込むコトは
然程のコトもなかった
一度の傷口では許されない
その傷口から吐き出てくる
白い煙を出し切るには
無数の傷が必要なのだ
誰しもが
傷ついたと言う
その償いを
この体内を貪る白い煙を
追い出すために
これ以上の被害者を出すわけにはいかない
短剣でこの時間を止めるには
どれくらい刺し続ければいいだろう
白い煙がきっと誰かを
癒やしてくれるだろう
だから、わたしは
この体に無数の穴をあける
自分に痛みなどない
発狂した自分に
苦痛などあろうはずもない
被害者を出したわたしは
償わなければならない
無数の穴を自分にあけて
許されるコトなど
望んではならない
気づかぬうちに
知らぬうちに
汚れ、穢れていた
この魂を浄化するために
わたしは白い煙と共に
消えるのだ
どこへともなく
消え去ってゆくのだ
わたしという歴史を
抹消し、跡形もなく消える
それがきっと誰かの
幸福となるだろう
銀の短剣は
輝いている
わたしには耐えられない
誰かが傷を負う姿は
もう、耐えられないのだよ
だから逃げるんだ
逃げるコトにするよ
本当は逃げるコトなんて
大嫌いなんだけれどね
目をくり抜いても
耳から入ってくるだろう
耳を潰して鼓膜を破っても
肌で感じるだろう
その震えや涙の大きさを
針の穴の傷でさえ
もう、耐えられないのだよ
だから逃げるよ
逃げるコトにするよ
どう逃げてみても
自分からは
逃げられないからね
だから
白い煙を出し切って
それだけをこの大地に残して
もう、わたしは
逃げるコトにするよ
さようなら
さようなら
さようなら
みんな
素敵に笑ってくれ
それだけを
持って逝くコトにしよう
さあ、お別れだ
君たちが幸運ならば
二度とわたしと
出会うコトはないだろう
そういう魂は
消滅する他、ないのだよ
狂人はそう言って
この世から去っていった
一ノ関 晏由美