高級老舗ぼったくりじじいの寿司屋

in #japanese5 years ago

家から車でほんの5分のところに、老舗の高級寿司屋(S長)がありました。せっかく寿司を始めたから、老舗とか名店とかと呼ばれるようなところで働いてみるのもよい経験になるかと思い、何よりも家から近いので応募してみました。面接に行ったところ、即採用され次の週から働く事に決定しました。しげさんという50年間寿司1筋でやってきた典型的な頑固寿司職人みたいな人が、ほぼ1人でやっているお店でした。
面接が終わったあと、見習いとして働いている日本人の20代後半の男が、表で丁度掃き掃除をしていて、私を見つけたとたん話しかけてきました。「ここで本当に働く気っすか?イヤ〜辞めた方がいいっすよ〜俺は勧めない。てか俺もそのうち辞めるし。」といきなり打ち明けてきました。
「う〜ん、でも家から近いし、とりあえず働いてみることにしたから。」日本で大概のひどい労働環境の職場で働いてきたから、大体なんとなく予想は着いていました。ただ寿司を始めたばかりだし、アメリカスタイルのわけのわからないロール寿司じゃなくて、本物の寿司職人の仕事を見てみたいという気持ちで働いてみる事にしました。

予想通り頑固職人の寿司屋だけあって、ここはアメリカだというのにめちゃくちゃ日本スタイルでした。私に最初に忠告してきた見習い君は案の定、毎日毎日、ばかだのくそだのと、こてんぱんにぼろくそ言われていました。暴力は振るわれていないようでしたが、蹴りくらいはいられていたと思います。日本食のシェフは自分がそうやって育ってきているので、下にも全く同じ事をしてしまうのでしょう。私の見てきた限り、日本食(特に老舗、名店と呼ばれている店)の料理人は怒鳴る、蹴るは当たり前、いつも罵声が飛んでいて下の者にはイジメの如く辛くあたり、ひどいものでした。それが一流の料理人になるための道だとでも信じているのでしょうか?
 しげさんの人格は今まで人生で出会った料理人のなかでも最低の人間性でしたが、正直に言って寿司は最高に旨い、日本で食べていた寿司よりも、今までの人生で一番美味しい寿司でした。シャリと魚のバランスが絶妙の一体感で、最初にマグロの寿司を食べてた時は、これぞ江戸前寿司、職人の技だなと本当に感動しました。特にシャリが美味い。これだけ美味しいものを作れるのに、なんでこんなクソみたいな人間性なのかが残念でたまらないのですが、やっぱり自分より美味しいものが作れる人にどのように怒られても仕方ないと思うほどでした。

見習い君はあれだけ毎日バカだと言われ続け、イジメのような日々に耐えられなくなり、予告どおり私が入って一ヶ月程で辞めてしまいました。私は一応日本で料理の経験があり、デザートはしげさんより作れたりしましたので、見習いくん程ボロクソではありませんでしたが、寿司に関しては経験がないので魚をさばくたびに口癖のように『バカだ、バカだ』と言われていました。特に『お前は女だからバカだ』という発言には毎回言われるたびに、腹ワタが煮えくり返る思いでいっぱいになり、石頭を金槌ででかち割ってやりたい衝動に何度もかられました。彼は「女はバカだ」「だからお前はバカなんだ」と毎日口癖のように連発していました。女がバカというなら、あんたはバカから生まれてきたんですか?本当はかなりの女好きで、私が即採用になったのもそのせいかと思います。働いてすぐ『君の彼氏にはなれないか』と言われた事があります。全身に身の毛がよだち、「それはないです」とはっきり言いましたが、未だ独り身で、その性格でまともに女の人に相手にされないために、女はバカだと自分に言い聞かせる事でプライドを保ってきたのではないかと思われます。『女はあそこでしか物が考えられない』だとか『そんな事をしたらパンツ脱がすぞ』などとセクハラ発言も多くありました。いつか絶対に訴えてやると思っていました。

あともうひとつの彼の口癖が「田舎者」。『あんな田舎者に寿司の味なんかわかりゃしない』気に入らないお客には出ていけと追い出したり、散々言っていました。自分だって北海道のどこか地方の出身なのに。そんな感じでしたので、こちらにはyelpという、日本の食べログみたいなのがあるんですがお客様からの評価は1スターか5スター、寿司の腕前は極上、しげさんの人格が至上最低といった変わった口コミでした。

店のロケーションもゲトーな雰囲気の場所にあり、暇な日は凄まじく暇で、営業時間夕方6時から深夜12時まで、ひとりも来ない日もありました。美味しいシャリを営業前に作っては営業後に大量に捨てる。いつも私は持って帰らされ、握りの練習で毎日100個軍艦を作るように言われました。
高いお値段の寿司屋で、おっさんのワインのコレクションはかなりのもので、ロマネ・コンティやらプレミアムワインも数多く持っていて、ちょっとでもお客が入って、ワインでも開けた日には売り上げはガンといくので普段のお客の入りはしょぼくても、なんとかやっていけているような経営状況でした。味は本物でしたので、映画監督やミュージシャン、俳優などの有名人もたまに来ていました。

暇な日は寿司やらワインを試食試飲させてくれ、給料は生き延びていくのもやっとの最低賃金でしたが、毎日のようにトロの漬けどんぶりや豪華な海鮮丼、高級チーズやらフォアグラなど、餌付けでもさせられてるかのように私は毎日頂いており、食生活だけはやたら潤っていました。
これは賄いの漬けどんぶりです。

もう少し給料がきちんと頂ければ、我慢して働いたかもしれませんが、家賃を払うのもいっぱいいっぱいの給料で、常に人をコケにした発言も聞いていられなくなり、寿司職人の仕事はひと通り見たところで、半年間でおさらばしました。
 ここロサンゼルスで、完全日本スタイルの寿司屋をがっつり体験する事ができ、大変勉強になりました。

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